お空におしゃかなvv

      〜寵猫抄シリーズより
                ( お侍 拍手お礼の六十九 )
 


甍の波と雲の波〜と、
ついつい鼻歌が出ている彼なのは、
そういう唱歌が染みついた世代だからというのではなく、
すぐの真上、頭上のお空に、
結構な風格のこいのぼりが、
五色の吹き流しと緋鯉・子鯉も引き連れて、悠々と泳いでいたからで。
昨日大荒れだった名残りの風を受け、矢車がからから回る音も軽快に、
風をたっぷりと呑んでの胴を丸々膨らませ、
ばっさ・ばさばさと泳ぐさま、
わざわざ見上げずとも
芝生に落ちる陰のひるがえる様で十分判る。

 「結構 持ち直しましたよね。」

体を動かすと汗ばむ陽気をますます後押しするかの如くに、
少しずつ空も明るくなりつつあるようで。
昨日・一昨日は、
あちこちで河川の氾濫という被害が出たほどの
荒れっぷりだったのだから、
濃色の陰が出来るほどの陽射は、確かに随分な回復と言えて。

 『せっかくの連休の真ん中に雨だったのは残念ですね』

昨日はリビングへ引き上げたこいのぼりだったの、
正座したお膝に上げての畳みつつ。
ついでに…それへと潜り込んでじゃれつく仔猫らをいなしつつ。
撫で肩を落とし、やれやれとの苦笑をこぼした秘書殿へ。

 『なに、中にはその真ん中の休みは取れなんだ お人もいようから、
  不公平なしという天の采配なのかも知れんて。』

そんなお言いようを、
顎のお髭を撫でながら、
やんわりと口になさった御主の解釈へ、

 “お優しい方だよなぁvv”

大人の理屈には違いないし、
遊びに出られぬ子供らには“どっちにしたって…”という
屁理屈に当たる言いようかもしれないが。
物は考えようぞと、
何事も善い方へ向くよう持っていかれるのもまた一種の寛容さ。
そうと感じてのこと、
なんて出来たお人だろうかと、
うふふと悦に入ってしまった七郎次だが、

 “儂のランニングがそんなにも気になるのだろうか。”

竿に肩を通したそのまま、
裳裾を摘まんでつんつんと、
いつまでも延ばしているものだから。
金の髪を束ねた尻尾がちょこりと垂れた、
ブルーと緑のストライプのシャツを羽織ったお背中。
実は上の空だと気づかず見ておれば。
成程、白木綿のランニングシャツと
いつまでもいつまでも向かい合っているようにも見えて。
居間の大きな掃き出し窓越し、
シャツの中身にあたる御主様が、
やや案じるように眺めておいでなの、
こちらもこちらで気づかずぬままに。
勘兵衛様ってばvvと、こそり浮かれておいでの秘書殿だったが、
そんな彼の足元を
“ぴょこたん、たたたっ”と駆け抜けてったのが、

 「…あ、久蔵。」

当家のかわいい仔猫コンビが、
いつの間にやら居間からお庭へ出て来ておいで。
頭上で はためく こいのぼりにはあんまり関心は無さそうで、
それよりも…お庭に躍る大きい陰を
捕まえたくってと飛び出して来たらしく。
まずはとキャラメル色の小さいのが
陽なたと同じ色の陰として駆けてって。
そのすぐ後を、小さめの歩幅で“よちよち・ひょこん”と
時間差で影が後追いするかのように、
弟分のクロちゃんが、
同じコースを覚束ぬ足取りで駆けて来て。
モクレンの陰、
陽が照ってないところとは思えぬほど発色のいい若緑が
明るく柔らかく萌えているサツキの茂み。
慣れた調子で えいやっと飛び上がった久蔵を追って、
自分も乗り上がろうとするのだが、

 「……にゃ?」

ちょみっとしか飛び上がれず、
ぱふん・ばささとお顔から突っ込んでの
自分は上がれないのが相当に不思議ならしく。

 「にゃあにゃ?」

何でだろー?何でかなぁ?と
綺麗に刈り込まれた茂みの“壁”を見上げつつ、
小さな頭をひょこりと傾げる様子がまた、
稚いのに一丁前なものだから……

 “か、かわいすぎるっ。///////”

物干しの足元へ すとんと座り込んでしまった、
金髪白皙の美丈夫様。
相変わらずな言動だというに、
その足元までは見えなかったものか、

 “とうとう座り込んだほどとは…。”

一体何がそうまで気になったのかと、
自分の雄々しい肩先を、
ついつい すんすんと嗅いでしまった誰かさんだったのは
ここだけの話です。





   〜Fine〜  2012.05.04.


  *………勘兵衛様。
   そんなに気になるか、恋女房。(笑)

ご感想はこちらvv めるふぉvv

ご感想はこちらvv

戻る